はじめに
みなさん、こんにちは。
フリューでプリントシール機(通称:プリ)の画像処理をやっている中嶋といいます。
昨年の8月に開催されたCEDEC2022にて登壇してきました!
今回はそのふりかえりをしながら、エンジニアとしての情報発信の意義やそのコツについて書いてみようと思います。
発表した内容は、
「誰が写っても間違いなく"盛れる"、理想の写真を実現する画像処理技術
~目を大きくするだけではない!プリントシール機における事例~」
というものです。
CEDECとは ~登壇しようと思ったきっかけ
CEDECというのは、ゲームを中心としたコンピュータエンターテインメント開発者に向けたカンファレンスです。
エンジニアリングだけでなく、ビジュアルアーツやプロダクションなど、多分野に渡って200近いセッションが集います。
CEDECの発表者は主に公募制となっていて、審査もあることから発表内容の充実が求められます。
一つ前のCEDEC2021には、弊社から井内・田村の両名がプリントシール機開発について発表を行いました。
(その時のふりかえりも記事になっています。ぜひこちらもご覧ください)
CEDEC2021に登壇してきました - FURYU Tech Blog - フリュー株式会社
実は私もその時に申し込もうと構想していたのですが、準備の時間が取れずに断念した経緯がありまして、
今回はそのリベンジも兼ねて同僚2人に続けと意気込んだというのもあります。
また、前の職場でコンシューマーゲーム開発に携わっていた頃から聴講していたこともあり、
CEDEC自体には漠然とした憧れのようなものを抱いていました。
それに対して「今ならあの場所に立てるのではないか…?」という時節が整ったような感覚もなんとなくありました。
参加するとなれば、実際に何をどのように講演するかを決めていかねばなりません。
ここからは、題材決め~構成と進める中で気をつけたポイントを追いながら進めていきます。
題材を決める ~どんな画像処理が魅力的?
まず最初に決めるのは、発表の題材です。 私は普段の業務として画像処理のソフトウェア開発をやっていますので、画像処理の話をすることだけは決まっていました。
昨今、機械学習やAIが急速に世間で取り沙汰されている背景もあり、画像処理という題材は興味を集めるにも良さそうです。
しかし、注目の技術なだけあって画像処理に関する情報は世間にも溢れており、
そこから抜きん出て魅力をアピールするには他にないフックとなる要素が求められます。
プリの画像処理と言えば、何はなくとも"盛れる"です。
”盛れる”とは普段の自分をより理想の自分に近づけるためになにかしらの加工ができること、と私たちは位置づけています。
しかしながら、"盛れる"という言葉だけでは抽象的すぎて、世のエンジニアに正しく意図を伝えるのは難しいでしょう。
そこでこの”盛れる”を、細かく分解してそれぞれを深掘りしていくことにしました。
概念自体は抽象的であっても、構成する要素単位で見れば各々のエッセンスは世の中で広く役立つものとなるはずです。
今回は"盛れる"が持つ意味から、「理想像を実現する」の部分に注目して、
「誰が写っても」「どんな写り方をしても」の2つの要素をピックアップして取り上げることにしました。
様々な被写体に対して色々な状況においてきれいな写真を仕上げる、という技術であれば、
プリに対する前提知識がない方に向けても、興味を持ってもらえるのではないかと考えたのです。
構成を決める ~目的→課題→解決の構図
題材が決まったら、次はどういう構成で発表を進めていくかを決めていきます。
心がけたのは、
- まず最初にやりたいこと(目的)を提示して
- それを実現するための壁(課題)があって
- その壁をどのように突破(解決)するのか
というストーリーを作ろう、というところです。
「どんな撮り方をしても」の項目を例に挙げると、
- まず、理想の目を仕上げるために、パーツごとに分析して処理をしたい
- しかし、目の状態や写り方によっては分析が難しい…
- 領域分割の手法を用いることで分析の精度を上げる!
の流れになりました。
聴講者の方は、何がしかの課題意識をもってこの講演に臨まれているはずです。
最初に私たちが何をやりたいのか、障壁は何かをしっかり知ってもらうことができれば、
それを聞き手が自身の抱えている課題と重ね合わせられるようになります。
そうすることで、解決策として提示する技術や手法がしっくりと入っていき、納得感を得られることが期待できます。
苦労したポイント ~知ってもらうって大変
続いて、登壇にあたって苦労した点について。
1つ目は、プリならではの事象や言葉をどうやって伝えるかです。
プリに詳しくない方が内容を見た場合でも、そこにどういう意味があるのかが伝わる必要があります。
例えば、肌の色味に関わる話をする場合、
現れてくる色や質感の差は、強く意識しないと気づかない可能性のあるレベルのものを扱っています。
バッドケースとして挙げた例では、どういう点に注目してなぜ悪いのか、
改善によってどんな変化が現れるのか、を図示しながら丁寧に解説していくように心がけました。
2つ目は、情報公開にまつわる難しさです。
プリは人物写真を扱う商品ですが、忘れてはならない点として人間の肖像権があります。
データとして有効な写真であっても、肖像権や個人情報の保護に触れないように気を配る必要があります。
今回の発表内容でも、例示した写真は専門に契約したモデルさんや社内の開発メンバーのものを使用して、問題のないように考慮しています。
また、技術的な内容に関しても、画像処理の細かい分野となると、 特許として権利化して保護できる部分と、技術的に重要であるが権利化は困難なノウハウに該当する部分、との境界がしばしば曖昧になります。
資料として公開して良いデータはどれで、公開する場合はどの範囲ならばリスクはないか、 一つ一つ検討していきました。
講演を終えて、それから
講演を終えてからの反響などについても書いておきます。
発表の後、すぐに4Gamer様に記事にしていただきました。
4Gamer様が例年CEDECにおけるレビューをまとめてくださっていることは過去にも拝見していたのですが、
こうした形で技術発信の内容を取り上げていただけるのはとてもありがたいことです。
また、社内においても良い影響がありました。
広報部門を中心として会社全体で情報発信の機運が高まったこともあって、
カジュアルに情報発信するためのイベントを開催しようという流れが生まれることになりました。
詳細はこちらで記事になっておりますのでご一読ください。
技術発信イベント「フリューテックトーク」第1回 開催報告 - FURYU Tech Blog - フリュー株式会社
おわりに ~情報発信はいいぞ。
登壇を終えての感想としてまず浮かんだことは、
これも日々の仕事の延長線上にあるのだなあ、ということでした。
一見、発表というのは特殊なことに思えますし、そのために日常ではしないような準備をするのも事実ですが、
それよりも、普段している業務の中で考えてきたことを拾い上げるプロセスの大事さを改めて感じました。
憧れの場所だと見ていた舞台も、結局はその積み重ねでできていて、
そうしてみると意外に近い場所だったのかもしれません。
最後に、エンジニアとしての情報発信自体について。
世間を取り巻く技術発展の状況は、ただ進歩の速度が上がるだけではなく、
複雑化や多様化がますます進んでいく流れにあります。
各々のエンジニアが自身で情報発信する重要性はさらに増していくことでしょう。
そんな中、一つの技術を整理して講演するという機会は、
自身の持っている強みを見つめ直し、言語化するための良い経験になります。
こうしてまとめた内容は、自分の"名刺"のようなものとして、
エンジニアとしての立ち位置を表すときに役に立つのではないか、と考えます。
ちょうど、CEDEC2023の講演者公募が始まっております。
これを読んだあなたも、ぜひこれを機に挑戦してみてはいかがでしょうか!
https://cedec.cesa.or.jp/2023/call_for_speakerscedec.cesa.or.jp